転嫁

転嫁(imputatio)の一般的教義

 今日の信仰の一部である転嫁は、二重の概念である。一つはキリストの功績の転嫁、もう一つはその結果としての救済の転嫁である。キリスト教会全体は、次のように考えている。義認とその結果としての救済は、父なる神による子キリストの功績の転嫁によってもたらされる。そしてこの転嫁は、恩寵により、神が望まれる時と所で、したがって神の裁量によって起きる。キリストの功績が転嫁される人々は、神の子として、受け入れられ数えられる。教会の指導者たちは、この転嫁の概念から一歩も先に進んでいないので、あるいはそれ以上に精神を高めていないので、神の裁量的選択についての見解によって、忌まわしい狂信的な誤りに、そしてついには予定説という唾棄すべき異端に陥っている。同様にまた、神は人が人生で何をするかは顧慮されず、ただ人が心に深く刻んだ信仰のみに注目されるという忌まわしい異端に陥っている。したがって、もしこの転嫁についての誤った信仰が取り除かれないなら、無神論がキリスト教世界全体に広がるであろうし、キリスト教徒はヘブライ語でアバドン、ギリシア語でアパルオンと呼ばれる奈落の王に支配されるであろう。(『真のキリスト教』628)

転嫁の教義の起源

 救い主キリストの功績と正義が転嫁するという信仰は、最初に、永遠からの神の三位格に関するニカイア公会議の教令から起こった。そしてその信仰は、そのときから現在に至るまで、キリスト教世界全体で受け入れられている。・・・中略・・・

 アタナシウス信条には次のようなことばがある。カトリックの信仰はこうである。われわれは、諸位格を混同することも、実体を分割することもせず、三一神(Trinitas)における一つの神を、また一体となった三一神をあがめる。しかしキリスト教の真理によって、われわれは各位格は別々の神であり主であることを認めることを強制されるように、われわれはカトリックの宗教によって、三位格の神、三人の主があると言うことを禁じられる。これは、三神、三主を認めることは許されるが、語ることは許されないということである。 (『真のキリスト教』632)

使徒教会では知られていなかった転嫁

 キリストの功績が転嫁するという信仰は、昔の使徒教会においては知られていなかったし、聖言のどこにもそれがわかるところはない。ニカイア公会議以前に存在した教会は使徒教会と呼ばれた。これはアジア、アフリカ、ヨーロッパの三大陸に広範に広がっていたが、それはコンスタンティヌス大帝の領土がヨーロッパの多くの国々(それらは後に帝国から分離した)のみならず、ヨーロッパ以外の隣接する国々にも広がっていたところから明らかである。コンスタンティヌスはキリスト教徒であり、自身の宗教の闘士であった。それゆえ、上述のとおり、アリウスの恥ずべき教えを帝国から排除するために、アジア、アフリカ、ヨーロッパから主教をビテュニアの都市ニカイアにある彼の宮殿に呼び集めた。(『真のキリスト教』636)

 聖言にはキリストの功績が転嫁するという信仰がわかるものは一切ない。それは、ニカイア公会議が永遠からの神の三位格を導入する以前は、教会にはそのような信仰の知識はなかったというところから明らかである。(『真のキリスト教』639)

キリストの功績と正義の転嫁は不可能である

 イエス・キリストの功績と正義の転嫁が不可能であると知るには、その功績と正義が何かを認識する必要がある。救い主であるわれらの主の功績は贖いである。その本質については上述の関連する章を見てもらいたいが、そこで述べられているのは、贖いとは地獄の征服であり、天界の秩序づけであり、その後の教会の設立である。したがって、贖いとは神だけがもたらしうるものである。そして贖いの行為を通して、主はご自身を信じ、ご自身の命令を行う人々を再生させ救う力を獲得されたことが示されている。この贖いがなければ、一人の人間も救われなかったであろう。(『真のキリスト教』640)

真の転嫁の教義

 これまで多くの人々は、律法の成就と十字架の苦難が、主が人類を贖い、人類に予期され運命づけられた天罰を取り除く二つの手段に他ならないと解してきた。このつながりから、またこれが起きたことだと信じるだけで人は救われるという原理から、贖いのためには、主の功績に属するこれらふたつを受け入れることによって、主の功績が転嫁されるという教義が出てくるのである。しかしこの教義は、主による律法の成就および主の十字架の苦難について述べられたところから明らかなように破綻している。同時に、功績の転嫁は、悔い改めの後の罪の許しであると解さないなら意味のないことばであるとわかる。なぜなら、主に属する何かが人間に転嫁されることはありえないからである。しかし、救いは人が悔い改めた後に主によって与えられることはあり得る。(『主の教義』18)

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