内村鑑三

内村鑑三とスウェーデンボルグ

 内村鑑三(1861~1930)の書いた『余は如何にして基督教徒になりし乎』(1895年刊行)は、欧米各国語に訳され、世界中で読まれている本である。この中で内村は、22歳のころ(1882年)にスウエ一デンボルグの書いた『天界の秘義』を読んだことがあると述べている。さらに3年後、アメリカに渡った内村はスウェーデンボルグ派の著者が書いた本を2冊読み、スウェーデンボルグにかなりの興味を示している。そのうちの1冊は、太田稲造(新渡戸稲造)に勧められて読んだものである。 その感想を手紙で次のように書き送っている。

 我は「スヱーデンボルグ」の著述の或るものを読みて大なる喜びを感ず。彼の教説 の多くは受くるゝ能わずと雛も、彼は聖書の最も難しき個所の多くを解明するに大い に我を助けくるなり。彼は偉大なる人、愛すベき人、疑いなく力強き思想家なり。彼 は多くの者には神秘的なり。然し彼の精神を理解する人々には、1メジスト牧師の我 に述ベる如くに、「気狂ひ」 a crazy にはあらず。 (1885年4月19日付書簡)

 当時、スウェーデンボルグといえば、極度の神秘主義者で、その思想は特異な啓示宗教だとして受けとめられていた。また、スウェーデンボルグを精神異常者だと言う有名な生理学者もいた。内村もその噂を聞いて知っていた。しかし、実際にスウェーデンボルグの著述を読んだ内村は、「このすばらしい人から与えられた思想的影響はつねに健全なものだった」(『余は如何にして基督教徒になりし乎』より)と、賞賛している。

 これらは内村の転身期における出来事であることから、内村がキリスト信徒になったのは、神秘主義のスウェーデンボルグの影響が大きかったのではないか、と言う研究者もいる。             

                                       文責 山本康彦